The 26th Annual Congress of the Japanese Association of Clinical Drawings
日本描画テスト・描画療法学会第26回大会
ワークショップ/認定描画療法士(基礎・実践応用)・特別講演・シンポジウムの
発表概要
標記事項に関して、下記のとおり、ホームページ用の概要を更新いたしました。今後、大会への参加をご希望される先生方はご参考にされて申し込みをお願いします。また、既に参加申し込みをされた先生方で、変更(特に、ワークショップ)を希望される場合には、できるだけ早めに変更の連絡を第26回大会事務局までお知らせ下さい。
7月5日現在では、希望されるすべてのワークショップ/認定描画療法士(基礎・実践応用)への参加・変更は可能です。
なお、最終的な資料は、プログラム・抄録集(8月下旬に送付予定)に掲載致します。
平成28年7月5日
第26回大会会長
山口大学 木谷秀勝
認定描画療法士研修会/ワークショップの概要
1.認定描画療法士:基礎コース(NK)
NK①「描画による支援の基礎と職業倫理」
【講師】香川 香(関西大学)
【概要】描画による支援の実践には、描画テストや描画療法などに関する専門的な知識や技能の習得が必須であり、これらを最大限に活かすためには高度な倫理観を備えている必要がある。本講義の前半では描画を中心にした芸術作品を用いる支援の全体的な枠組を示し、後半ではインフォームド・コンセントや守秘義務などの職業倫理、ならびに研究方法や成果の公表などに係わる研究倫理に関する基本的事項を解説する。
NK②「心理アセスメントの基礎」
【講師】木谷 秀勝(山口大学)
【概要】臨床描画法を含めた心理アセスメントを心理臨床場面で活用する場合、アセスメント(測定する)する目的や解釈の方向性が時代のニーズに応じて変容している。今回の研修においては、臨床描画法を中心にしながら、時代を超えた普遍的側面と時代のニーズに適した柔軟的側面の両面について概説する。特に、神経発達障害児者に対する心理アセスメントの適用に関して、事例を通して検討してみたい。
NK③「心理面接の基礎」
【講師】生地 新(北里大学)
【概要】 心理面接は、聴くことと、伝えることから構成されている。「聴く」というのは、相手の話を聴き、相手を観察することを通じて、その人の心の動きを理解することである。「伝える」というのは、その理解を相手に伝えたり、その理解に基づく助言をしたりすることである。この二つの要素は、アセスメント面接でも、治療面接(心理療法面接)でも、両方がバランス良く含まれていて、うまく連動していることが理想である。そして、とりわけ、聴くことが、心理面接で最も大切な要素である。研修会では、この二つの要素について、さらに詳しく述べる。
NK④「描画による心理アセスメントの基礎」
【講師】鈴江 毅(静岡大学)
【概要】まず、「描画の基礎概論」として、描画テスト(心理アセスメント・投影法)と描画療法(心理療法・芸術療法)について概観します。次に「描画による心理アセスメント」で、描画によってアセスメントできること、描画テストの種類、描画法の選択、解釈などを解説し、一部描画実習も行います。さらに「実際の使用例」を解説し、 最後に「実施にあたっての注意点」に触れる予定です。
NK⑤「描画による心理面接の基礎」
【講師】高橋 依子(大阪樟蔭女子大学)
【概要】描画による心理面接とは、描画を心理療法として用いることを指しています。当学会では描く過程も大切にしたいと考えて描画療法と呼んでいますが、絵画療法・表現療法・アートセラピーとも呼ばれています。描画療法とはどのようなものかを概観した後、描画を心理療法として用いるときの導入の方法や、実施の際の留意点について解説し、心理療法としての描画の意義を考えたいと思います。
2.認定描画療法士:応用・実践コース(NO)
NO①「描画による心理面接の事例検討」
【講師】松下 博(神奈川県スクールカウンセラー)
【概要】乳幼児期から虐待を受けてきた子ども達は、言葉や描画で自分の気持ちを表現することが苦手であると、私は考えています。しかし、面接場面では描かれた描画は、私たちに何らかのメッセージを伝えようとしていると考えることができます。今回は、描画に取り組む子どもの事例を募集し、面接場面で起こっていることを参加者と一緒に考えたいと思います。
NO②「描画による心理アセスメントの事例検討」
【講師】藤掛 明(聖学院大学)
【概要】描画をテストとして用い、アセスメントを行うことは、優しくもあり、難しくもあります。本研修では認定描画療法士のために、事例検討を通して、その解釈の実際を学んでいきたいと考えています。なお描画テストの事例を募集します。描画は、家族画、樹木画、HTP(HTPP)、雨の中の私画、コラージュなどで、描画後質問情報のあることが望ましく、事例は思春期以降のものを求めます。単発面接でも、継続面接の一部でもかまいません。
NO③「描画による研究法」
【講師】橋本 秀美(大阪樟蔭女子大学)
【概要】研究法には主に①質的研究・事例研究と②数理統計的研究がある。描画法において,①では,個々の描画についての詳細な分析を通して,それらを超えた普遍的な意味を見出そうとする。②では,多数の描画を数量統計的に分析することにより,発達や臨床的な特徴を知ろうとするが,描画を数理的に分析するにはどのような方法があるのだろうか。さらに,①②ともに,秘密保持と情報の公開のバランスという倫理上の課題や手続きをもつ。本WSでは,描画による研究について,その目的にあった研究法の選択とその方法について学びたい。
3.ワークショップ(午前中:W1~W4)
W1 「樹木画テスト」
【講師】高橋 依子(大阪樟蔭女子大学)
【概要】投映法の心理テストの中でも、描画テストは、クライエントの内面世界を生き生きと理解できる。特に「木」の描画はクライエントの抵抗が少ないので、無意識の自己像が表れやすく、臨床場面で頻繁に用いられている。しかし、用い方によっては客観性に欠ける可能性があるため、一定の方法で実施し、過去の資料と比較しながら解釈することが大切である。今回は「木」を描く心理テストの実施法と基本的な解釈法について解説する。
W2 「描画の発達障害」と「発達障害の描画」
【講師】石川 元(大西病院)
【概要】詳しくはこちらをご覧ください。
W3 「児童虐待の描画による援助」
【講師】園部 博範(崇城大学)
【概要】児童虐待へのアプローチとしては、主に家族、虐待者、被虐待児への援助が行われている。援助機関としては、児童相談所、児童福祉施設、病院などがあり、援助対象によって様々な治療方法が選択されている。演者は長年児童相談所に勤務し、家族、保護者、被虐待児への面接を行ってきた。その経験を踏まえ、本ワークショップでは、児童虐待に対する描画を使ったアプローチを紹介し、その可能性について考えてみたい。
W4 「動的家族画・動的学校画」
【講師】橋本 秀美(大阪樟蔭女子大学)
【概要】バーンズとカウフマン(1970,1972)により,人物画や家族画に動的要素を加味した動的家族画(KFD)が確立され,静的なものに力動性が示され,質・量ともに獲得情報が増加し,多義的な臨床的知見が得られる新しい次元の描画法となった。さらに,ノフとプラウト(1985)が,動的家族画に動的学校画(KSD)をシステムとして用いる,動的家族・学校描画システム法を開発した。これらの描画法は,自分自身のことや家族や学校の問題を語ることが難しい学校臨床だけでなく,成人の臨床にも多く活用されている。本 WS では,KFDとKSDの技法及び様々な分析指標を紹介し,臨床事例も紹介したい。受講者の皆様の実践に有用な技法と情報提供を行いたい。
4.ワークショップ(午後:W5~W8)
W5 「小児臨床における描画テスト」
【講師】寺嶋 繁典(関西大学)
【概要】情緒面に課題を有する子どもの心理アセスメントを行うにあたり、面接などの言語的な手法では明らかにできにくい情報がある。この点でグラフィック・コミュニケーションを媒介とする描画テストには、言語によって伝えにくい情報が視覚的に表現されることがあり、子どものパーソナリティの理解に有用である。本研修では描画テストなどにもとづく心理アセスメントとケース・フォーミュレーションについての研修を行う予定である。
W6 「描画研究のための基礎知識」
【講師】馬場 史津(中京大学)
【概要】研究は誰かがするもの、と研究を少し遠くに感じている研究初心者対象のワークショップである。描画テストや描画療法を行いながら、ふと疑問が生じることはないだろうか。それが研究の種である。疑問が生じれば、研究は始まっているといえる。種を育てて、成果を得ればよい。ワークショップでは疑問を研究目的として整理し、研究法を具体的に例示する。グループディスカッションを通じて、いろいろな意見を聞きながら研究計画を立てるプロセスをシミュレーションしてみたい。
W7 「描画を活用した心理療法」
【講師】寺沢 英理子(広島国際大学)
【概要】言葉だけではなく描画表現を加えて心理療法を進めることには長い歴史がある。そして、実際に多くの臨床家がその体験を持っているのだと思う。ワークショップという機会に、今一度その基本を整理してまとめてみたい。とくに、描画の導入・実施とその活用、そして心理療法の展開との関連など、いくつかの事例を提示して、学びを深めたいと思う。今回は、心理療法の経過のなかで描画回数の少ない事例も紹介したい。
W8 「描画を活用した病院臨床」
【講師】志村 実夫(小郡まきはら病院)
【概要】描画は対話によって創られ、作品は対話をもたらす。内なる心と作品を手がける心との対話、作者のみならず周囲の人々や環境と作品の間で生じる対話、作者や周囲の人々による対話等である。専門職として私たちは、描画する傍らで過ごしている。病院内での描画の実際を示し、時間の許す限り、参加者にはワークを行い、それがどのような対話となるのかを体験して戴きたいと思う。必要な描画用具は演者側で用意しておきます。
特別講演/シンポジウムの概要
1.特別講演
特別講演テーマ:「まど・みちお 自分らしく生きる-こころの小宇宙を描きながら」
【講師】有田 順一氏(周南市美術博物館館長)
【概要】誰もが口ずさむ「ぞうさん」「やぎさん ゆうびん」。まど・みちおが残した戦後を代表する童謡です。そのまどが、50歳代の前半、人知れず抽象画を描いた時代があります。それは癒やしだったのか苦悩だったのか、今も謎のままです。分かっているのは、その時代が終わり童謡から自由詩へと大きく舵を切ったこと。つまり童謡詩人から詩人へと主体を移したのです。まどは抽象画に何を託し、またそこから何を得たのだろうか。すこしその窓をあけてみたい。
2.シンポジウム:「自分らしさと描画」
話題提供①:「養護施設の子ども達が描く描画」
【話題提供者】高橋 佳代(鹿児島大学)
【概要】児童養護施設とは、保護者のない児童や虐待されている児童など環境上養護を要する児童を養護し,援助を行う施設である。施設では、虐待を受けていた児童や何らかの障害を持つ児童が増加しており、より専門的なケアが必要とされている。本シンポジウムでは、施設入所小学生と家庭で育つ小学生の樹木画の比較を通し、描画に示される施設入所小学生の発達の様相と自己表現のあり方への理解を深めたい。
話題提供②:「HTPPに見える性的違和感」
【話題提供者】浜田 恵(浜松医科大学)
【概要】性別違和とは、身体の性(割り当てられた性)と自覚している性(経験している性)に不一致がある状態のことを指す。つまり、表面にあらわれる「自分」と心理的な「自分」には、違和感(葛藤)をもつこととなる。そうした違和感(葛藤)とどのようにうまく付き合うかということも含めて、性別違和感がある者の「自分らしさ」は形成されていくと考えられる。本話題提供では、性別違和(性同一性障害)として受診したFTM60名程度、MTF20名程度のHTPPの描画から、彼らの「自分らしさ」について検討したい。
なお、今回の話題提供では南雲吉則氏(ナグモクリニック)との共同研究の一部を報告する。
話題提供③:「家族員間の橋渡しとしての家族描画法-非行少年や離婚問題で葛藤する事例を手がかりにして」
【話題提供者】山崎 一馬(西南学院大学)
【概要】現在は,家族が一緒に何かすることは少ない。家族がクライエントと共同で描画を見たり描くことにより見えなかったものが見え,聞こえなかったものが聞こえる。非行や夫婦紛争の背景の一つに家庭内の葛藤がみられることが多い。
課題の解決のために,家族が持っているリソースを活用し,変化の力を引き出すために橋渡し(触媒)としての家族描画法(動的家族画,家族関係図式投影法と家族間交互色彩分割法)を事例を交えながら考察したい。